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介護施設の設計と計画のポイント

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介護施設の設計ガイド|利用者の安心と運営のしやすさを両立する計画ポイント

介護施設の設計ガイド|利用者の安心と運営のしやすさを両立する計画ポイント

2025/10/22

介護施設の設計は、専門性と運営理解の双方を前提に成立する領域です。単に必要な諸室を整えるだけではなく、利用者の安心や快適性、職員の働きやすさ、長期的な運営のしやすさまでを含めて計画することが求められます。

高齢者の身体状況や認知特性に配慮しながら、日常生活を支える空間をどのように構成するかによって、施設全体の質は大きく変わります。本記事では、介護施設設計の基本的な考え方から、具体的な計画ポイント、注意点までを整理します。

介護施設設計の基本的な考え方

介護施設の設計では、安全性・快適性・運営性をバランスよく成立させることが重要です。利用者の安心感や生活の質を支えると同時に、介護スタッフの働きやすさや施設運営の効率にも大きく関わります。

 

安全性の徹底確保:転倒・事故・感染症への配慮

介護施設では、利用者の身体状況を踏まえた安全性の確保が前提となります。転倒や事故のリスクを抑えつつ、日常的な移動や生活を無理なく支える空間とすることが求められます。

床には滑りにくい仕上げを採用し、廊下や出入口の段差をなくすことで転倒リスクを軽減します。手すりは握りやすい形状と適切な高さで計画し、必要な位置に配置することで移動を支えます。また、換気計画やゾーニングの工夫により、空気の滞留を防ぎ、感染症リスクの低減にも配慮する必要があります。

こうした建築的な配慮の積み重ねが、利用者とスタッフの双方にとって安心できる環境をつくり、施設の信頼性を支えます。

 

快適性の最大化:「施設」から「住まい」へ、心地よい空間の創出

介護施設は、医療や介護の機能を備えつつも、利用者にとっては「住まい」です。そのため、日々を穏やかに過ごせる快適性の高い空間を整えることも求められます。生活環境の質は、利用者の心身の健康や生活意欲に影響を与えます。 

具体的な設計としては、居室や共用部に自然光を取り入れられる大きな窓を設け、風通しを確保します。また、内装材には木材や暖色系の色を選択し、病院のような無機質な印象を避けます。さらに、共用スペースにはソファやテーブルを配置し、自然と会話や交流が生まれるようにします。そして、庭やテラスを設置すれば、外の景色を眺めたり散歩を楽しんだりでき、日々の生活に楽しさが加わります。 

快適性を配慮した空間設計により、「単なる介護サービスを提供する場所」から「心地よく暮らせる住まい」へと変わるのです。

 

効率性の追求:介護スタッフの動線と働きやすさを支える設計

介護スタッフの働きやすさは、そのままサービスの質に直結します。無駄のない動線と機能的なレイアウトをどのように構成するかが、日々の業務効率を大きく左右します。

ナースステーションは各フロアの中心に配置し、居室・浴室・食堂への移動距離を短縮します。物品庫やリネン室は動線上に計画し、必要な備品にすぐアクセスできるようにします。また、休憩室は業務エリアと適度な距離を確保し、短時間でもリフレッシュできる環境とすることが重要です。

  • ナースステーション:各フロアの中心に配置し、主要動線を短縮する
  • 物品庫・リネン室:動線上に配置し、作業効率を高める
  • 休憩室:業務エリアと距離を取り、切り替えを促す

こうした計画により、スタッフの負担を抑えながら、安定した介護サービスを提供できる環境が整います。

 

空間別に考える設計ポイント

空間別に考える設計ポイント

介護施設は、利用者の要介護度や生活スタイル、提供するサービスの内容によって求められる空間のあり方が異なります。それぞれの条件を踏まえて設計することで、安全性・快適性・運営性のバランスを取りやすくなります。

 

特別養護老人ホーム(特養):24時間ケアを支える動線と見守りの設計

特養では、要介護度の高い利用者が多く、日常生活の多くに介助が必要となるため、スタッフが迅速に対応できる動線と、無理なく見守れる配置が求められます。

ナースステーションやスタッフルームは、居室や共用スペースに近接して配置し、緊急時にも短い動線で対応できるようにします。廊下は車椅子やストレッチャーの通行を前提に幅員を確保し、曲がり角には視認性を補う工夫を施します。また、共用部をフロアの中心に計画することで、少ない移動で複数の利用者を見守れる環境を整えることができます。

こうした計画は、24時間ケアを支える基盤として、日常的な安心感と運営の安定性の両方に寄与します。

※1参照元:厚生労働省「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」(14ページ)

 

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住):プライバシーとコミュニティの両立

サ高住では、自立した生活を前提としながら、入居者同士の適度なつながりと安心感をどのように成立させるかが設計のポイントとなります。プライバシーを確保しつつ、孤立を防ぐための空間構成が求められます。

各住戸には専用のトイレやキッチンを設け、個としての生活を支えます。そのうえで、共用ラウンジや食堂を建物の中心に配置し、自然に人が集まる場をつくります。廊下は単なる通路とせず、緩やかな曲がりや滞留できる余白を設けることで、立ち話や交流が生まれる関係性をつくることができます。

こうした計画により、プライバシーを保ちながらも、人との距離が適切に保たれた暮らしが実現します。

※2参照元:厚生労働省「サービス付き高齢者向け住宅の現状」(49ページ)

 

介護付き有料老人ホーム:多様なニーズに応える機能性と空間価値の融合

介護付き有料老人ホームでは、入居者の身体状況や生活スタイルの幅広さに対応しながら、快適性と空間価値の両立が求められます。介護機能だけでなく、日常を心地よく過ごせる環境としての質も重要な要素となります。

居室は車椅子での移動や介助を前提に十分な寸法を確保し、家具配置も含めて使いやすさを整えます。浴室は機械浴と個別浴の双方を計画し、身体状況に応じた入浴環境を選択できるようにします。共用部は明るさや開放感を意識しながら、落ち着きのある設えとすることで、日常の中に上質さを感じられる空間とします。

  • 居室:移動・介助を前提とした寸法とレイアウト
  • 浴室:機械浴と個別浴の併用による柔軟な対応
  • 共用部:開放性と落ち着きを両立した空間設計

機能性と空間の質を同時に整えることで、介護サービスの安定性と入居者の満足度の双方を支える環境が実現します。

※3参照元:厚生労働省「有料老人ホームの概要」(14ページ)

 

デイサービス・デイケア:社会参加を促す開放的な空間づくり

デイサービス・デイケアでは、日中の限られた時間の中で、利用者の活動意欲や交流を引き出す空間づくりが求められます。明るさや開放感、使い方の自由度が、滞在の質に大きく影響します。

大きな開口を設けて自然光を取り入れ、天井高さに変化を持たせることで、広がりのある空間をつくります。活動スペースは可変性を持たせ、レクリエーションや機能訓練、食事など多様な用途に対応できるよう計画します。また、送迎車の停車位置から入口、活動スペースまでの動線を短く整理することで、移動負担を軽減します。調理や園芸などの体験ができる場を設けることも、日常の楽しみや交流を生み出す要素となります。

  • 自然光と天井高さによる開放的な空間づくり
  • 可変性のある活動スペースの計画
  • 送迎から室内までのスムーズな動線
  • 体験や交流を生むプログラム空間の確保

こうした設計により、利用者が自然に身体を動かし、人と関わり、「また来たい」と感じられる環境が生まれます。

※4参照元:
厚生労働省「どんなサービスがあるの? - 通所介護(デイサービス)」
厚生労働省「どんなサービスがあるの? - 通所リハビリテーション(デイケア)」

 

利用者と職員の双方に配慮した設計

利用者と職員の双方に配慮した設計

介護施設では、空間ごとに求められる役割や、利用者・スタッフの動きが異なります。それぞれの空間特性に応じて設計することで、安全性・快適性・運営性のバランスを整えることができます。ここでは、共用部や居室、廊下・階段、浴室、機能訓練室、休憩室・事務室など、主要な空間ごとの設計ポイントを整理します。

 

共用部(リビング・食堂):自然な交流とリラックスを生む空間

リビングや食堂などの共用部は、利用者同士の交流が自然に生まれるとともに、日常的に長く滞在する場でもあります。空間の質が施設全体の印象や生活満足度に直結するため、開放感と居心地の良さをどのように両立させるかが重要です。

大きな開口により自然光を取り入れ、明るく穏やかな環境をつくります。家具は移動しやすさと身体への負担を考慮しつつ、会話が生まれやすい距離感で配置します。音環境にも配慮し、吸音性のある素材を取り入れることで、過度な騒音を抑えた落ち着きのある空間とすることが有効です。

こうした設計により、利用者が自然に集まり、それぞれのペースで過ごせる居場所が形成されます。

 

居室:プライバシー、尊厳、そして「個」の空間をどう守るか

居室は、利用者が日常の大半を過ごす空間であり、心身の安定に大きく関わります。プライバシーへの配慮と安全性をどのように両立させるかが、設計の質を左右します。

壁や建具の遮音性を高め、外部からの音を適切にコントロールすることで、落ち着いて過ごせる環境を整えます。家具配置は介助のしやすさと利用者自身の使いやすさの両立を前提に計画し、無理のない動線を確保します。また、非常時には迅速に対応できるよう、スタッフの動線やアクセスにも配慮が必要です。

こうした設計により、「個」としての尊厳を守りながら、安心して過ごせる居場所が形成されます。

 

廊下・階段:安全な移動を支える幅、手すり、素材の選び方

廊下や階段は、日常的に使用される移動空間であり、安全性の確保が最も重要となる部分です。転倒リスクを抑えながら、無理のない移動を支える寸法とディテールの設計が求められます。

通行幅は車椅子同士のすれ違いを想定し、余裕を持って確保します。手すりは両側に設け、握りやすさと連続性に配慮することで、移動時の安心感を高めます。床材は滑りにくさと適度なクッション性を持つものを選定し、転倒時の負担軽減にも配慮します。

  • 幅:車椅子同士がすれ違える寸法の確保(目安:2m前後)
  • 手すり:両側設置とし、連続性・握りやすさに配慮
  • 床材:ノンスリップ性とクッション性のある仕上げ

さらに、色のコントラストや段差の視認性を高める工夫を加えることで、移動時の不安を軽減し、安全性を高めることができます。

 

浴室・トイレ:介助のしやすさと自立支援を両立する設備計画

浴室やトイレは、転倒リスクが高く、介助の頻度も高い空間であるため、安全性と使いやすさの両立が求められます。利用者の身体状況に応じた動作を支えながら、無理なく利用できる環境を整えることが重要です。

浴室は滑りにくい床材を採用し、手すりやシャワーチェアの配置によって動作を支えます。トイレは車椅子での移動や方向転換を想定した寸法を確保し、非常時に対応できる呼び出し設備を適切に設けます。設備の選定と配置は、介助のしやすさと利用者自身の使いやすさの両立を前提に計画する必要があります。

  • 床材:ノンスリップ性を確保し、転倒リスクを低減
  • 手すり・設備:動作を支える位置・高さで計画
  • 寸法:車椅子の回転・介助動作を想定した広さ
  • 非常対応:呼び出し設備の確実な配置

こうした計画により、安全性を確保しながら、利用者が自分の力で行為を継続できる環境が整います。

 

機能訓練室・医務室:専門的ケアを支える機能的な空間設計

機能訓練室や医務室は、利用者の健康維持や回復を支える専門性の高い空間です。安全性を確保しながら、効率的にケアやリハビリが行える環境をどのように構築するかが重要となります。

機能訓練室は十分な採光と広さを確保し、歩行訓練や運動機器の配置に配慮することで、安全かつ継続的なリハビリを支えます。医務室は処置や診療の流れを想定し、必要な設備や収納を効率的に配置することで、緊急時にも対応できる動線を確保します。

  • 採光・広さ:活動を支える開放的な環境
  • 機器配置:安全性と使いやすさを両立
  • 医務室動線:処置・診療の流れを整理したレイアウト

こうした設計により、専門的なケアを無理なく継続できる環境が整います。

 

スタッフ空間(休憩室・事務室):職員の定着率を高める環境設計

休憩室や事務室などのスタッフ空間は、介護サービスの質を支える基盤となる要素です。業務効率とリフレッシュの両立を図ることで、長期的な運営の安定性にもつながります。

休憩室は静けさと落ち着きを確保し、短時間でも心身を回復できる環境とします。事務室は作業や打ち合わせの動線を整理し、必要な設備にアクセスしやすい配置とすることで、日常業務の効率を高めます。

  • 休憩室:静けさと快適性を確保したリフレッシュ空間
  • 事務室:業務動線と設備配置を最適化

スタッフの負担軽減と働きやすさに配慮することが、結果としてサービスの質と人材定着の両方を支えます。

 

よくある失敗と計画時の注意点

よくある失敗と計画時の注意点

介護施設の設計は、高い専門性と運営への理解が求められます。安心して長期的に運営できる施設とするためには、設計事務所の選定が計画全体の質を大きく左右します。

特に重要となるのは、介護施設の設計経験、予算管理の精度、竣工後を見据えた対応力の3点です。

 

介護施設の設計経験を確認する

介護施設の設計は、一般的な建築とは異なり、安全性・快適性・運営性を同時に成立させる必要があります。これらをバランスよく整えるには、用途特有の知見と実務経験が不可欠です。

廊下幅や手すりの高さといった寸法の検討に加え、車椅子動線、介助動作、感染症対策としてのゾーニングなど、運用を前提とした設計が求められます。こうした配慮は、実際の設計経験の中で蓄積されるものです。

実績や竣工事例だけでなく、運営後の使われ方まで踏まえた提案ができるかどうかを見極めることが、設計事務所選定の重要なポイントとなります。

 

予算内で価値を最大化するパートナーか

設計事務所の選定においては、単にコストを抑えるのではなく、限られた予算の中でどれだけ価値を引き出せるかが重要となります。介護施設では、建築費に加え、設備・家具・運営後のランニングコストまで含めた総合的な判断が求められます。

初期コストと長期コストのバランスを見極め、耐久性や省エネルギー性に配慮した仕様とすることで、将来的な修繕費や光熱費の抑制につながります。また、複数案の比較やコスト配分の考え方を明確に説明できる設計体制であるかも重要な判断軸となります。

予算内で価値を最大化する視点を持つことが、長期的に安定した施設運営につながります。

 

建てて終わりではないアフターフォロー体制

介護施設は、竣工後の運営の中で変化し続ける建築です。利用者構成や制度、社会的な要請の変化に応じて、空間の使い方や機能の見直しが求められる場面も少なくありません。

バリアフリー基準の更新や感染症対策の強化など、運営に関わる要件は年々変化しています。こうした変化に対して、迅速に図面修正や改修計画を提案できる体制が整っているかどうかが重要です。

設計段階から竣工後まで継続的に関わることで、施設の価値を維持・向上させていくことが可能になります。

 

介護施設設計のご相談について

介護施設の設計には、安全性・快適性・効率性を高める専門的な知識と技術が不可欠です。片岡英和建築研究室では、豊富な設計実績と介護サービスに対する深い理解に基づいて、長く愛される施設づくりをお手伝いします。計画段階から竣工後のフォローまで丁寧に対応しながら、理想の介護施設を形にいたしますので、お気軽にご相談ください。

 

介護施設の設計は、用途ごとの要件だけでなく、ホテル・オフィス・商業施設と同様に、建築全体の構成や事業性と一体で検討することが重要です。 用途ごとの設計の違いや考え方は、各記事で詳しく解説しています。

 

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